この文章は、別冊釣り人vol148に掲載したものをさらに書き加えたものです。

Trigger

 

 

捕食行動を起こさせるための
トリガーとしてのカラー

 「今どんなフライを使っている?」「何色?」

こんな会話が、よく釣り場で飛び交っている。

釣れている人に使用しているフライを聞く場合、パターンの種類とサイズ、それ以外にも“色”が必ず含まれてきている。それは同じパターンであっても色が違うとそのフライが全く別物に思えるほど釣果の差が出てきてしまうことが多いからである。

そこで私は、鱒に色覚あるかどうかと確かめるべく、いろいろな実験をしてきた。

自然界では色以外の様々なファクターが絡んできて比較が難しくなってしまうために、私の運営するフィッシングエリアをフィールドに選び、魚の捕食行動を調べてみたのである。その中の例を取り上げて話を進めていこう。
               
ここで断っておきたいことは、養殖場から持ち込んで日の浅い鱒に関しては、興奮状態になると何でも捕食してくるために、結果は全く当てにならなくなってしまうが、当エリアでは、オールキャッチ&リリースという規制をしており、4年から少なくとも半年以上は、徹底的にフライでスレさせた鱒を実験対象に選んだ調査結果をここではお知らせする。

2014年 KenCubeの社員となりました!

 


 この写真は大きくなります


対比較実験

捕食キーとしての色覚の確実な存在


 まず、準備として鱒に単一のエサを長期にわたり時間を決めて与え、そのエサを捕食することを学習させる。

十分学習が行われたと思われる時点で、エサを与える前と、与えている最中とに分け、フライのカラーを変え試釣を行う。

鱒にエサを与える前には、天気、水深、場所の違いにより様々なカラーのフライにヒットしていたが、エサを与えるのと同時に状況は一変し、エサと同じカラーのフライのみに反応してくるようになってしまう。しかし、沈下、水深、フライの材質、透過性、ティペットの有無など、様々な影響が関係してくる可能性が出てくる。 そこで、エサに各色の塗料を塗ってティペットを結び、水深30cmの所にマーカーで定位させ、色以外は全て同じ条件を作り出してさらに調べることにした。

結論からいうと、エサに何も塗らない場合は、躊躇することなく一気に捕食をするが、それ以外の赤、黄色、青、緑、白、黒に塗られたエサは、それぞれの色により多少の差は現れたものの、大半の鱒が警戒し捕食しない個体が多かったのである。

その実験のみでは、どこまで鮮明に色覚があるかは解らないが、色の違いに対しての反応は明らかであり、色覚は持っていると私は思っている。


 


 「食欲刺激型」と色の記憶力

短期記憶の存在を知る


 捕食行動を起こさせる引き金は、形、サイズ、透過性、素材の質感など、色々あると思う。その中の一つとしてフライのカラーは重要な役割を持ち得ていると私は考えている。そこでフライのカラ−のみについて話を進めていきたいと思う。

捕食行動を起こさせる引き金としてのカラーは、「食欲刺激型」と「好奇心・攻撃心刺激型」に2分されそれぞれにカラーのあり方が変わってくるというのが私の持論だ。

まずは、「食欲刺激型」であるマッチ・ザ・ハッチやマッチ・ザ・ベイトのステージにおいてカラーの重要性を考えてみよう。

流下する水生昆虫が単一種で、ヘルプレス状態で流下するイマージャーを捕食している場合などを考えると、そのイマージャーは不完全体なものであるがために特定の形状は持たず、そのそれぞれの形状が捕食行動を起こさせる要因となりうる。しかし色に関しては、個体に多少のズレはあっても大きく変わることがないために、捕食しているイマージャーの色を鱒が認識し、それが捕食行動を起こす一つの引き金となっていることが考えられる。

これは自然のフィールドで試験的に試してみたことなのだが、ハッチするモンカゲロウを鱒が捕食している時、そのライズに向かいドライフライをキャストするのではなく、ダンと同じようなイエロー系のウエットフライをキャストし水中に漂わせておいても鱒はヒットしてきてしまう。

モンカゲロウは水面羽化のために水中では100%ニンフの状態であり、ウイングなどは持たず、ウエットフライとは大きくかけ離れた形状である。そのカラーはイエローというよりも茶系のカラーである。しかし、ダンの形状に似たイエロー系のウエットフライを、水面ならまだしも、水中という全く違う条件の中でヒットしてくるということは、捕食をしていた(捕食中の)ダンのカラーを記憶しそれと同じであることに反応し、ヒットしてきたことが考えられるのではないだろうか。

管理釣り場での実験においても顕著に現れていたことが1つある。エサを与えている最中においては、同じような形状であっても捕食しているエサとカラーが違うものには拒否反応を示し、エサと酷似しているカラーのフライのみ反応してくることだった。

ところが、エサ本物のカラーが鱒の長期記憶に残され、いつでもそのカラーに反応するかというとそうではないのだ。エサの特定色は「エサを与えている最中」という条件下でのみ絶大な効果を発揮することから、鱒は餌生物の色を認識するが、それを短期的に記憶して比較対照の基準とし捕食行動を行うことが仮説として考えられる。

マッチ・ザ・ハッチの釣りやマッチ・ザ・ベイトなど、魚が特定種のエサを捕食中の場合、フライのカラーをそれに酷似させることが、捕食行動を起こさせる引き金となることが正当化されるわけだ。

 

 

「好奇心、攻撃心刺激型」と光りの色

本来の色、光、水が作る複合効果


 次に「好奇心、攻撃心刺激型」において考えてみよう。

上記のように捕食行動中であれば、本物に対して偽物というように捕食している物と違う物の比較により捕食の判断が行われているが、それ以外の場合においては、鱒が食べれる物/それとも食べられない物 というような比較をするために、好奇心により捕食行動を起こす場合と、反射的もしくは攻撃のために捕食と同じように口を使う場合が考えられる。

上記の食欲刺激型と同様でその行動に移るための引き金としては数多くのカギがあると思われる。その中の一つには、鱒が興味を示すカラーというものが存在し、捕食行動を起こすために大きく影響していることが考えられるだろう。

では、そのカラーはどのような条件から生まれてくるか考えてみよう。

湖でシンキングラインを使用した釣りの場合、オリーブのフライが抜群にヒットする時間があることは皆さんご存じとは思う。それを私なりの仮説で考えてみると、その状況に置いてはオリーブという色が水中では他の色から際だち、興味を示すカラーとなったのが直接の原因では無いかということだ。

光が水中に入っていく際に、赤・緑・青の光の三原色の中で赤の光は水に吸収されやすく、それ以外の緑と青の光は水中に入っていくために水の色はシアン(緑青)ががってくる(これは光の波長の長さによるもの)。

さらに、湖には植物性プランクトンが多い。そのプランクトンの色とシアンのカラーが混ざったものが水の色なのだ。

そこで重要なのは、「物の色が見える」というのは、その物が自ら発色しているのではなく、全て光の反射でおこる現象であること。簡単にいうと赤い光の無い所においては、赤い物は赤く見えないのである。

このことを証明する実験として是非に試していただきたいのが、ここ近年、街灯や高速道路のトンネルに使用されているオレンジのライトの中での実験である。釣りに行く際などにそのライティングの中を通ったとき、各色を使用したジュース缶や紙などの色の変化を見ていただきたい。ライトのカラーはオレンジであるためにその光の中には青い光はなく、青い物はグレーに、赤い物は茶色がかったグレーになってしまうのである。

即ちコカコーラの缶の赤色は茶色がかったグレーになってしまうのだ。

その中で面白い色が、オレンジそして白と黒である。

このオレンジの光の中では、黄色からオレンジにかけての色はより鮮やかに見え、白は淡いオレンジに黒は全く変色することなくクッキリと黒のままなのである。

これと同様なことが湖の中でも起きているのだ。

トンネル内と同じで、湖ではシアンがかったグリーンの水の色がフィルターとなり、その色の光の中で物を見ることとなるために、他の色はモノクロのような明暗度合いのみが強調されるものになってしまうが、オリーブ色は鮮やかに見え、興味を示すカラーとなったことが考えられる。

オリ−ブと一言にいっても、ゴールデン・オリーブやグリーン・オリーブなど種類があり、つり場によりヒットカラーはまちまちであるが、それぞれの場所の、季節、水温、水深等により水の色が違ってくるため、ヒットカラーにも違いが出てくることが考えられる。

ちなみに私は、水の色と同色のカラーを選ぶことを基本にしている。

 

    

ここ画像は大きくなります

光りの角度と光量

 魚にあたる光量は1日で劇的に変化


 次に考えなければならないことは、光の強弱による色の変化である。

たとえば、日中はヒットしたカラーが夕方になると全くヒットしなくなってしまうことがよくある。

その理由として考えられることは、正午頃の水中に一番光が入りやすい時であっても水深1mあたりで光量は半減してしまうことから推測すると、太陽が傾き水面に対しての光の入射角が鋭角になってくると、それ以上に水面に光は反射され、水中に入ってくる光量は激減してしまう。

水中に入ってきた光がフライに反射しその色を強調していたことを述べてきたが、光が弱くなってしまったことにより、フライの色による強調度合いが弱くなってきてしまうのである。

つまり、光量が弱くなってきたことによりヒットカラーの基準はカラーからモノクロに替わり、色が持つ明暗度が重要視されてくる。

ここでも先に述べたオレンジ色の実験と同じで、低光量の条件下でも、黒はあくまでも暗く白は明るい色であり、光量が減少するにつれ光の反射率の高い明度の高い物が目立つようになってくる。しかし、そこで気を付けなければならないのが、鱒の定位水深とフライの位置関係である。

これまでは、順光又は透過光において話を進めてきたが、鱒よりフライが水面側にある場合、即ちトラウトウインドウ内においては逆光の状態となるために、シルエットのハッキリとした明度の低い物が目立つようになる。

すなわち光量が弱いときは、明暗度の明るい物、または使い方により逆に最も暗い黒が目立つようになってくる。

これまでは、光量が弱いときの説明をしてきたが、これと同じことが、逆の光量が強い日の日中に起こることにも注意したい。

ここに大きく関与してくることが水の透明度と光量である。

冬の湿度が低い快晴の日中で、格別に空が青く見えるときなどは、太陽光線の照度が13〜12万ルクスもある。

ここでは、ルックスという照度のみを取り上げているが、それ以外にも紫外線は大きく関与しており、現段階でしかもこの場で全てを説明することは難しいために、影響が強く現れる2月の頃を限定して例題に取り上げ、ルクスのみにて話を進めていこうと思う。

その月の晴天の日を過去のデーターから調べてみると、2月後半頃、日の出がAM06:05の時、2時間後の08:00には約5万ルクスになり、さらに2時間後の10:00には9万ルックスそしてPM12:00には12万ルックスになってくる。

これは日が当たっている所の明るさの数値だが、12万ルックスの時に日陰となっている部分の明るさは、7千ルックス前後である。同じような時期の曇りの日の照度は1万ルクス前後になっている。

この数字よりお解りと思うが、その日の天気、時間、場所により光の強さが大きく違い、さらに光の入射角をプラスすると水中での照度はさらに大きく変化していることが考えられる。

鱒の目にはカメラのような絞り調節機能が無いために、この照度の変化は鱒の行動に大きく影響してくるのではないだろうか。

光が水中に入り込みやすい角度と水面がフラットなときの条件を元に話を進めていくが、
鱒が水面近くに浮上しエサを捕食するのは5万ルックス以下が多く、この12万ルックスという光の強さは鱒の目にとっては強すぎるために物のサイズやカラーの判断が落ち、強すぎるこの光を嫌い水面近くから離れ適度な明るさを求め水中深くに移動をしていく 。

このことは水温と大きく関係しており、水温が低い時ほど順応性は鈍り顕著に現れてくるが、逆に水温が高くなるとその順応性も高まるために現れにくくなる。

その適度な光量の場所に関与するのが水の透明度であり、透明度が低ければさほど影響は受けないが、高くなればなるほど光の入射量は多くなるために鱒の定位置が深くなってくる。

即ち水の透明度が高く光量が強い所では、鱒が深く沈むためにトラウトウインドウは大きく広がり、先に説明した逆光になる比率が高くなるために、その中ではシルエットのハッキリとした明暗度の暗い色が目立つようになる。

ここで本来はサイズまでもが関わってくるが、今は色についての話のみにて進めていこう。

そこで、トラウトウインドウ外での目立つ色となると、透明度が高く光量が強い所においては水の色によるフィルター効果が薄れ、彩度の高い色が目立つようになる。

トラウトウインドウ外での水面は鏡面化しているために水深がある場所では水の色に、浅い場所では水の色のフィルターを通した色調で川底を映しだす。

そうなると、鱒の視界に入ってくる色は水の色である青緑を中心とした色が強くなり、その色をバックにフライのカラーを見るようになるため、相反する色の赤を中心とした紫から黄色が目立つようになる。

そこで目立てばそれがヒットカラーに結びつくかというと一概には言えず嫌うこともあるようだが、“鱒の好む色”を目立たせるアクセントとして取り入れることによりフライの効果を増すことができると私は考えている。

  

 モンタナでも、あのフライ・・・・

色の実験に適切な「あれ」とは?    


 イエローストーンへ行ったときもそうだったが、イエローストーンといえば直ぐにマッチ・ザ・ハッチのイメージが浮かぶ場所。

しかも、スプリング・クリークの川として、ここ最近、雑誌等で取り上げられている「MZランチ」へ初めて行き、私が記念すべき第一投目に結んだフライはイマージャ−やダンではなく、何と「キンギョちゃん」なのであった。

そのカラーは、ホットオレンジ&シャートリューズ。そんな掟破りをしたのも、日本のニジマスには有効なカラーが、ネイティブなレインボートラウトに対して同じように通用するかどうかを調べるためであり、それには水深が浅く透明度が高いことが要求され、スプリングクリークがベストと感じていたからである。

結果は、推測通りの連続ヒット。ニジマスと同様ネイティブなレインボーはホットオレンジのフライを発見するとかなり離れていたところからでも、わざわざ近づいてきて何度も口に含んでくる始末。

違うカラーを試してみたが効果はなく、強烈な勢いでホットオレンジ&シャートリューズのカラーに誘発されていたのだ。

このことは、阿寒湖やその近くのひょうたん沼、そして私の一番の研究場所であるトラウトポンドでも同じことが言える。

ホットオレンジのカラーにニジマスは強く反応するが、その他の魚の一般的な色の好みは、各地での経験からすると、ヒメマスと鮭はレッド、イワナはブラック&ゴールド、アマゴはホワイト&パールの色に強く反応してくる。

そのことを理論的には説明できないが、これはその種の鱒が潜在的に好む色と私は判断し、光量が多い時間においては、このカラーを基準にフライの選択を行っている。

水中においてフライのカラーは、天気、時間、水質、水深により様々に変化していく、魚を含め自然が相手となるために全く同じということはあり得ず、その中でいかに有効なカラーを探し当てるかが全てのカギとなるはずである。

間違っているかもしれないが、色に対する私なりの考えを持ち、それを元に応用し幅広く対処していけば新たなる発見につながると考えている。